2008年03月27日
お詫び
楽しみに読んでいただいている皆さんにお詫びです。実は椎間板ヘルニアになってしまい、しばらく入院していました。もうすぐ連載再開しますので、見捨てずに読んでください。四月になったらバリバリ更新します。痛みがだいぶ減りました。注射痛かったっす
2008年03月12日
恥づる 38:T・Sの正体
「さあ、今日もきちんと仕事しろよ」
清掃主任の芦沢の檄が飛び、朝の空気がいっそう引き締まった雰囲気の中、柴崎は汗をかいていた。
「おい、山田、どうした具合が悪いのか?働く前から汗かいてるぞ」
芦沢が心配して声をかけてきた。
「いえ、あ、は、はい…」
「なんだ、なんだ、しっかりしろ。返事も変じゃねえか。少し休んでいていいぞ」
厳つい風体には似つかない言葉をかけてきた。
「じゃあ、少しだけ休ませてください」
「おう、よくなったら、またしっかりやれよ!」
言葉は乱暴だが温かみのある言葉を残し芦沢たちは清掃員用の部屋から出ていった。実は、流れ出ていた汗は熱さを感じたものでもあり、寒気を感じたものでもあった。そんな得体の知れない汗であることを清掃員の『山田』こと柴崎自身が一番よくわかっていた。なぜなら大林の研究室で見たT・Sというイニシャルに心当たりがあったからだ。そのイニシャルが示す人物が柴崎の想像した人物であるなら、今回の一件は彼自身が思っているよりも根の深い問題であることを直感的に感じ取ったからこそ、流れ出た汗だった。
彼は清掃員用の部屋においてある大学職員の名簿要覧を手にとり、あるページを開いた。
斎藤正…京帝大学理事長…
「まさか、こいつか…」
柴崎は清掃員として雇われる際の面接で、一度だけこの男に会っている。要覧の名簿で確認するとT・Sというイニシャルの職員は斎藤を合わせて3人いたが、残りは共に女性であった。
清掃主任の芦沢の檄が飛び、朝の空気がいっそう引き締まった雰囲気の中、柴崎は汗をかいていた。
「おい、山田、どうした具合が悪いのか?働く前から汗かいてるぞ」
芦沢が心配して声をかけてきた。
「いえ、あ、は、はい…」
「なんだ、なんだ、しっかりしろ。返事も変じゃねえか。少し休んでいていいぞ」
厳つい風体には似つかない言葉をかけてきた。
「じゃあ、少しだけ休ませてください」
「おう、よくなったら、またしっかりやれよ!」
言葉は乱暴だが温かみのある言葉を残し芦沢たちは清掃員用の部屋から出ていった。実は、流れ出ていた汗は熱さを感じたものでもあり、寒気を感じたものでもあった。そんな得体の知れない汗であることを清掃員の『山田』こと柴崎自身が一番よくわかっていた。なぜなら大林の研究室で見たT・Sというイニシャルに心当たりがあったからだ。そのイニシャルが示す人物が柴崎の想像した人物であるなら、今回の一件は彼自身が思っているよりも根の深い問題であることを直感的に感じ取ったからこそ、流れ出た汗だった。
彼は清掃員用の部屋においてある大学職員の名簿要覧を手にとり、あるページを開いた。
斎藤正…京帝大学理事長…
「まさか、こいつか…」
柴崎は清掃員として雇われる際の面接で、一度だけこの男に会っている。要覧の名簿で確認するとT・Sというイニシャルの職員は斎藤を合わせて3人いたが、残りは共に女性であった。
2008年03月07日
恥づる 37:封筒
CDなのか、DVDなのか、柴崎はデータが保存されているメディアを探した。多くの書物がある中から朝の短い時間の中で探し出すのはかなり危険が伴う。急がなければ…あせりとは裏腹に書物の間からは何も見つからない。なぜだ、画像が保管されているメディアをここに隠しているんじゃないのか、叫びたくなるそんな気持ちを落ち着かせながら一冊一冊、本の間を探した。検討違いだったのか、そうあきらめかけた時、一冊の本が書棚からはみ出ているのに気づいた。柴崎は何かの匂いを嗅ぎ取ったかのように、その一冊に手を伸ばした。本の間には茶色い封筒が一つ挟んであった。封筒は膨らんでおり、柴崎には中を見る前にその中身が容易に想像できた。ゆっくりと封筒を開けると案の定、札束が入っていた。ざっと数えて百万ほどだろうか。札束をつまんで取り出すと、一枚の紙切れが封筒の口からひらりと舞い落ちた。
その紙を拾い上げると、紙面に目をやると次のような短いメッセージが書かれていた。
「いつもありがとう。また、頼む」
なんだ、この金は誰かから受け取ったものなのか、そう思いながらメモ書きの下のほうに目を落とすと、「T・S」とイニシャルが記されていた。
T・S…T・S…誰だ?T・S…
「あっ!ま、まさか…」
柴崎は思わず声を上げた、と同時に、何かに気づいたのか…急いで自分の侵入してきた形跡を隠し、大林の研究室から足早に立ち去った。
その紙を拾い上げると、紙面に目をやると次のような短いメッセージが書かれていた。
「いつもありがとう。また、頼む」
なんだ、この金は誰かから受け取ったものなのか、そう思いながらメモ書きの下のほうに目を落とすと、「T・S」とイニシャルが記されていた。
T・S…T・S…誰だ?T・S…
「あっ!ま、まさか…」
柴崎は思わず声を上げた、と同時に、何かに気づいたのか…急いで自分の侵入してきた形跡を隠し、大林の研究室から足早に立ち去った。
タグ:封筒
2008年03月06日
恥づる 36:牙城侵入
朝早い大学校内の廊下は人の気配がなく静寂さを保っていた。柴崎の歩く手前にはまるで冷たい空気が氷の壁を作っているように冷え冷えとしていた。その冷たい壁を壊していくかのように彼は一歩一歩ゆっくりと大林の研究室に向かって歩いた。今日の彼はそれほどに熱かった。いよいよ大林の個室に侵入できる、そう思うとハングとしての血が沸き立つのだろう。冷たい空気の中に広がる吐く息の白ささえ、いつもより濃く見える。
ガチャ、研究室に合鍵を使って入ると内側から部屋の鍵を閉めなおした。また、誰かに入って来られてはたまらない。時間を惜しむようにすばやく例の偽造カードを取り出し、個室前のカードセンサーに差し込んだ。
ノブを静かに回すとカチャという軽い音とともに、個室のドアが開いた。ついに奴の牙城に侵入することができたな、そんなことを思いながら眼鏡の中央を中指で押し上げ、部屋の中にゆっくりと足を踏み入れた。
研究資料や書物でいっぱいの本棚がいくつか立ち並び、その奥にデスクが見えた。パソコンはその上にあった。
しかし、永澤らのデータがあると踏んだ外付けのハードディスクは見当たらない。DVDか、CDか…柴崎は地味なゼミ生山本の言葉を思い出した。「本棚は大事なデータや研究論文があるから、絶対に触らないように言われています」
柴崎は本棚に近づき、書物の間を丁寧に調べ始めた。
ガチャ、研究室に合鍵を使って入ると内側から部屋の鍵を閉めなおした。また、誰かに入って来られてはたまらない。時間を惜しむようにすばやく例の偽造カードを取り出し、個室前のカードセンサーに差し込んだ。
ノブを静かに回すとカチャという軽い音とともに、個室のドアが開いた。ついに奴の牙城に侵入することができたな、そんなことを思いながら眼鏡の中央を中指で押し上げ、部屋の中にゆっくりと足を踏み入れた。
研究資料や書物でいっぱいの本棚がいくつか立ち並び、その奥にデスクが見えた。パソコンはその上にあった。
しかし、永澤らのデータがあると踏んだ外付けのハードディスクは見当たらない。DVDか、CDか…柴崎は地味なゼミ生山本の言葉を思い出した。「本棚は大事なデータや研究論文があるから、絶対に触らないように言われています」
柴崎は本棚に近づき、書物の間を丁寧に調べ始めた。
2008年03月04日
恥づる 35:偽造
ネットカフェの薄暗い明かりの個室で、柴崎は顔に貼った絆創膏をゆっくりと剥ぎ取った。大林は今日の研究室の一件を覚えていたとしても、おそらく柴崎の顔をはっきりと思い出すことはないだろう。人の記憶というのは曖昧で特に顔に何かが貼ってあると、そのことに気がいってしまい、後ではっきり顔を思い出すことができない。それが強盗や詐欺の犯人がよく使う手口であることを柴崎は知っていた。
剥ぎ取った絆創膏を親指でパソコンモニターの隅に貼り付けると、メールソフトのアイコンをクリックした。受信中…その文字が消えるやいなや彼は一通のメールに目を通した。先日送信した相手からの返信だった。「了解、至急作成する。材料を送れ」
彼は裏サイトを通じてハングという名で様々な裏社会とつながりをもっており、今日スキミングしたデータから偽造カードを手に入れることなど容易なことだった。
「材料を送る」
暗号めいた短いメールを再び送信した。
三日後、彼は近くの郵便局に行き、私書箱から一通の封筒を受け取った。中にはもちろん、大林の研究室の個室に入るための偽造カードが「GOOD LUCK」という一枚の紙切れと共に同封されていた。
「いよいよだな…」
柴崎は、「GOOD LUCK」と書かれた紙切れを一瞬眺めてニヤリと笑うと、封筒とともに一つに丸めてゴミ箱に投げ入れ、静かに郵便局をあとにした。
剥ぎ取った絆創膏を親指でパソコンモニターの隅に貼り付けると、メールソフトのアイコンをクリックした。受信中…その文字が消えるやいなや彼は一通のメールに目を通した。先日送信した相手からの返信だった。「了解、至急作成する。材料を送れ」
彼は裏サイトを通じてハングという名で様々な裏社会とつながりをもっており、今日スキミングしたデータから偽造カードを手に入れることなど容易なことだった。
「材料を送る」
暗号めいた短いメールを再び送信した。
三日後、彼は近くの郵便局に行き、私書箱から一通の封筒を受け取った。中にはもちろん、大林の研究室の個室に入るための偽造カードが「GOOD LUCK」という一枚の紙切れと共に同封されていた。
「いよいよだな…」
柴崎は、「GOOD LUCK」と書かれた紙切れを一瞬眺めてニヤリと笑うと、封筒とともに一つに丸めてゴミ箱に投げ入れ、静かに郵便局をあとにした。
タグ:偽造
2008年02月29日
恥づる 34:スキミングのタイミング
大林は机の上に散乱している資料に目を通し、必要な資料を片手に取ると自身の個室に入るため例のカードを財布から取り出した。柴崎は何食わぬ顔で彼のそばまでバケツとほうきを持って近づいた。そして、大林がカードセンサーにカードを通し財布に戻そうとした、その瞬間、柴崎は大林がカードをもっていた掌にほうきの柄を軽く当てた。パチン、カードは大林の手から床にひらりと落ちた。柴崎は、いかにも偶然当たったかのような態度で、
「あっ!先生、す、すみません」
と言うやいなや、びびった様子で肩をすくめながらすばやくカードを拾い上げた。
突然のことにキョトンとしている大林にカードを手渡そうと差し出した。しかし、次の瞬間、カードは再び足元のバケツの中に舞い落ちた。
「あ、あっ、先生、ほんとに、ほんとにすみません。大切なカードが…」
そう言うと、水面に浮かんだカードをバケツから取り出した。
「すぐに拭きますから、許してください」
大林が話しかける間も与えず、柴崎はカードを持ったまま研究室を飛び出した。そして、廊下においてあった清掃袋からスキマーを取り出し、すばやくカードを通して情報を盗み取った。いわゆるスキミングである。
数分もしないうちに柴崎は、白い綺麗なタオルにカードを包みながら研究室に戻った。
「先生、本当にすみませんでした。綺麗に拭きましたので許してください」深々と頭を下げながらカードを丁寧に手渡した。
「いえいえ、いいですよ。急にぶつかってびっくりしましたがね。カードのことは気にしていませんよ」
どうぞ、清掃を続けてください、そう言っているかのように、右手で床を指しながら物腰の柔らかい、いかにも普段の彼らしい紳士的な物言いで大林は受け答えをした。
「すいみません、本当に気をつけますので」
そう言いながら、二度とこんなことはないんだけどね…と柴崎は心の中でつぶやきながら清掃を続けた。
「あっ!先生、す、すみません」
と言うやいなや、びびった様子で肩をすくめながらすばやくカードを拾い上げた。
突然のことにキョトンとしている大林にカードを手渡そうと差し出した。しかし、次の瞬間、カードは再び足元のバケツの中に舞い落ちた。
「あ、あっ、先生、ほんとに、ほんとにすみません。大切なカードが…」
そう言うと、水面に浮かんだカードをバケツから取り出した。
「すぐに拭きますから、許してください」
大林が話しかける間も与えず、柴崎はカードを持ったまま研究室を飛び出した。そして、廊下においてあった清掃袋からスキマーを取り出し、すばやくカードを通して情報を盗み取った。いわゆるスキミングである。
数分もしないうちに柴崎は、白い綺麗なタオルにカードを包みながら研究室に戻った。
「先生、本当にすみませんでした。綺麗に拭きましたので許してください」深々と頭を下げながらカードを丁寧に手渡した。
「いえいえ、いいですよ。急にぶつかってびっくりしましたがね。カードのことは気にしていませんよ」
どうぞ、清掃を続けてください、そう言っているかのように、右手で床を指しながら物腰の柔らかい、いかにも普段の彼らしい紳士的な物言いで大林は受け答えをした。
「すいみません、本当に気をつけますので」
そう言いながら、二度とこんなことはないんだけどね…と柴崎は心の中でつぶやきながら清掃を続けた。
タグ:スキミング
2008年02月26日
恥づる 33:清掃
カードセンサーを通す映像がモニターに映し出された瞬間、柴崎はほっと胸を撫で下ろした。
「ICチップはない形のカードか…旧型のカードなら簡単だ…」
そんな独り言を言いながら、カードの種類を識別した。最近はセキュリティーが強化され、ICチップが搭載されたカードが主流になりつつある。そういう意味では大林の使用しているものは磁気だけの単純な構造だった。カチッ!
そのことだけを確認し、小型カメラのスイッチを切った。カタカタカタ…再びキーボードをすばやく打ち込むと何やらメールを送信した。
「よし、今日の仕事はこれで終わりだ。」顎鬚を一本抜きながらメールが送信されたことを告げるメッセージを閉じた。ふうとため息を一つつき、身体をごろりと横にしてから横目で天井を見上げた。薄明るいネットカフェのライトがぼんやり光っている。いよいよ、大林を本格的に吊るす方法が柴崎の脳裏に浮かんできていた。彼はゆっくり目を閉じ、しばしの休息をとった。
数日後、柴崎はいつものように大林の研究室前の廊下を清掃していた。一つだけ違っていたのは顔に一枚の絆創膏を貼っていたことだ。
「おはようございます」
廊下の先から声が聞こえた。大林だ。柴崎は深く被った帽子のつばを握って軽く会釈した。大林が研究室に入ると同時に柴崎は声をかけた。
「先生、研究室の中を簡単に掃除しましょうか?」
「あっ、ああっ、そうだね。たまにはお願いするかな。かなり汚いけど床くらい掃いていただこうか」怪しむ様子もなく答えた。
「では、失礼します」
柴崎は堂々と大林の研究室に入り清掃を始めた。
「ICチップはない形のカードか…旧型のカードなら簡単だ…」
そんな独り言を言いながら、カードの種類を識別した。最近はセキュリティーが強化され、ICチップが搭載されたカードが主流になりつつある。そういう意味では大林の使用しているものは磁気だけの単純な構造だった。カチッ!
そのことだけを確認し、小型カメラのスイッチを切った。カタカタカタ…再びキーボードをすばやく打ち込むと何やらメールを送信した。
「よし、今日の仕事はこれで終わりだ。」顎鬚を一本抜きながらメールが送信されたことを告げるメッセージを閉じた。ふうとため息を一つつき、身体をごろりと横にしてから横目で天井を見上げた。薄明るいネットカフェのライトがぼんやり光っている。いよいよ、大林を本格的に吊るす方法が柴崎の脳裏に浮かんできていた。彼はゆっくり目を閉じ、しばしの休息をとった。
数日後、柴崎はいつものように大林の研究室前の廊下を清掃していた。一つだけ違っていたのは顔に一枚の絆創膏を貼っていたことだ。
「おはようございます」
廊下の先から声が聞こえた。大林だ。柴崎は深く被った帽子のつばを握って軽く会釈した。大林が研究室に入ると同時に柴崎は声をかけた。
「先生、研究室の中を簡単に掃除しましょうか?」
「あっ、ああっ、そうだね。たまにはお願いするかな。かなり汚いけど床くらい掃いていただこうか」怪しむ様子もなく答えた。
「では、失礼します」
柴崎は堂々と大林の研究室に入り清掃を始めた。
タグ:清掃
2008年02月22日
恥づる 32:小型カメラ
この日,柴崎は清掃の仕事をすばやく終え,自身のネットカフェの個室に閉じこもった。パソコンを立ち上げ,カタカタとすばやくキーボードを操作した。モニター上に見られるデジタル時計は午後の5時半を表示している。この時間帯になると大林は研究室にいることが多い。研究生も今の時期は早く帰ってしまう。そのことは清掃の仕事をしながら観察していた。
「よし,つながった」
大林は眼鏡の中央を中指で押し上げながら,モニターに映し出された映像に目をやった。研究室に仕掛けた小型カメラが個室の前の状況を鮮明に伝えてきている。彼は大林の恥ずべき行為を吊るすため,ここ数日の間に仕事の合間を縫って様々な作業に取り組んでいた。大学の屋上にはカメラの電波を飛ばすためのアンテナを設置したり,校内には中継するための機器を設置したりした。清掃員として作業していたので学生や教員にもとりわけ怪しまれずに済んだ。
しかし,主任の芦澤には,作業の最中に時々指定された場所を離れていることを確認され,どこかで勝手に休憩しているのかと怒られたりもした。柴崎はモニターを見ながら,ふと,そのことを思い出し,クスッと一人笑いをした。
その時だ。大林が研究室に入ってきた映像が目の前に飛び込んできた。彼は周辺の資料をゴソゴソと探り,自身の研究に必要なものを探していた。山のように積まれた資料が一度机から山ごと落ちた。大林は慌てて資料を拾っている。
柴崎は,先ほどの一人笑いとは別の冷やかしのような含み笑いをしながら,その状況を眺めていた。大林は資料をもとに戻すと,必要な資料を手にして個室に入ろうとカードキーを自分の財布から抜き出した。カタカタカタ,柴崎がキーを叩くと同時にその瞬間の映像が拡大され,モニターに大きく映し出された。
「よし,つながった」
大林は眼鏡の中央を中指で押し上げながら,モニターに映し出された映像に目をやった。研究室に仕掛けた小型カメラが個室の前の状況を鮮明に伝えてきている。彼は大林の恥ずべき行為を吊るすため,ここ数日の間に仕事の合間を縫って様々な作業に取り組んでいた。大学の屋上にはカメラの電波を飛ばすためのアンテナを設置したり,校内には中継するための機器を設置したりした。清掃員として作業していたので学生や教員にもとりわけ怪しまれずに済んだ。
しかし,主任の芦澤には,作業の最中に時々指定された場所を離れていることを確認され,どこかで勝手に休憩しているのかと怒られたりもした。柴崎はモニターを見ながら,ふと,そのことを思い出し,クスッと一人笑いをした。
その時だ。大林が研究室に入ってきた映像が目の前に飛び込んできた。彼は周辺の資料をゴソゴソと探り,自身の研究に必要なものを探していた。山のように積まれた資料が一度机から山ごと落ちた。大林は慌てて資料を拾っている。
柴崎は,先ほどの一人笑いとは別の冷やかしのような含み笑いをしながら,その状況を眺めていた。大林は資料をもとに戻すと,必要な資料を手にして個室に入ろうとカードキーを自分の財布から抜き出した。カタカタカタ,柴崎がキーを叩くと同時にその瞬間の映像が拡大され,モニターに大きく映し出された。
2008年02月16日
恥づる 31:まがい物のカード
柴崎はとっさに資料だらけの大きな机の影に隠れた。戸を開けた主は中の様子を見渡しながら静かに入り口に立っていた。柴崎は思わず身を縮めた。その視線が自分に向けられているのかというヒリヒリした感覚を感じていた。そして、一人の人間が静かに部屋の中に入ってくる気配を感じた。一歩一歩、机に近づいてくる。こんな時のために懐に用意している睡眠剤を含んだハンカチに思わず手をやった。
しかし、その足音は大林の個室の入り口に向かった。幸運なことに柴崎が隠れた机の逆方向にその入り口はあった。誰なんだ、こんな朝早くにこの部屋に入れるのは…大林なのか…気になったもののこの状況で机から顔を出すのは非常に危険だ。
彼は、ふと、先ほど設置した隠しカメラの存在を思い出した。そのカメラの映像は自身の携帯電話で見られるように設定されている優れ物だった。音を立てないように注意深く携帯を取り出し、落ち着いてボタン操作をした。
携帯画面に映像が映し出された。大林の個室の前に立っていたのは、あの永澤里美だった。どうやら彼女は、柴崎同様、この部屋に入るカギを大林の目を盗んでこっそり作っていたのだろう。個室の前に立った彼女は自分のバックから取り出した数枚のカードを使ってセンサーに通していた。しかし、どのカードも反応しなかった。
「ダメだ!やっぱり、もう!なんで開かないのよ、このインチキ!」
彼女はイライラしながらカードをドアにぶつけ、一人ごとを吐いた。彼女は彼女なりに自分が辱められたデータを取り返そうと必死だったのだ。おそらく彼女の持っていたカードは秋葉原の裏通りで売買されている中国製のまがい物だろうということが、この手のことに詳しい柴崎には容易に想像できた。数分後、彼女はあきらめた様子で研究室のカギを掛け直し、静かに出ていった。柴崎はいざという時のために握っていた睡眠剤入れのハンカチから片方の手を離し、大きなため息をひとつ吐いた。
しかし、その足音は大林の個室の入り口に向かった。幸運なことに柴崎が隠れた机の逆方向にその入り口はあった。誰なんだ、こんな朝早くにこの部屋に入れるのは…大林なのか…気になったもののこの状況で机から顔を出すのは非常に危険だ。
彼は、ふと、先ほど設置した隠しカメラの存在を思い出した。そのカメラの映像は自身の携帯電話で見られるように設定されている優れ物だった。音を立てないように注意深く携帯を取り出し、落ち着いてボタン操作をした。
携帯画面に映像が映し出された。大林の個室の前に立っていたのは、あの永澤里美だった。どうやら彼女は、柴崎同様、この部屋に入るカギを大林の目を盗んでこっそり作っていたのだろう。個室の前に立った彼女は自分のバックから取り出した数枚のカードを使ってセンサーに通していた。しかし、どのカードも反応しなかった。
「ダメだ!やっぱり、もう!なんで開かないのよ、このインチキ!」
彼女はイライラしながらカードをドアにぶつけ、一人ごとを吐いた。彼女は彼女なりに自分が辱められたデータを取り返そうと必死だったのだ。おそらく彼女の持っていたカードは秋葉原の裏通りで売買されている中国製のまがい物だろうということが、この手のことに詳しい柴崎には容易に想像できた。数分後、彼女はあきらめた様子で研究室のカギを掛け直し、静かに出ていった。柴崎はいざという時のために握っていた睡眠剤入れのハンカチから片方の手を離し、大きなため息をひとつ吐いた。
2008年02月13日
恥づる 30:足音
柴崎は自身の懐に手をやり、なにやら黒い小型の筒をゴソゴソと取り出した。
「ここでいいかな?」
彼はカードセンサーがよく見える場所に小型のカメラを設置した。極小サイズのもので設置されているのもわからない優れものだ。送信電波の距離もかなりの高性能のカメラだった。よし、とりあえずこれでいいかな…
ふと、そんな安心めいた気持ちになっていると研究室の外から足音が聞こえてきた。その足音は確実に大林の研究室に近づいてきている。清掃員の格好をしているとはいえ、大林の研究室にこんな朝早くから勝手に入っていることは、どう見ても不自然な状況だった。カツ、カツ、カツ
研究室の前で足音は止まった。ガチャ!研究室の戸がゆっくり開いた。
「ここでいいかな?」
彼はカードセンサーがよく見える場所に小型のカメラを設置した。極小サイズのもので設置されているのもわからない優れものだ。送信電波の距離もかなりの高性能のカメラだった。よし、とりあえずこれでいいかな…
ふと、そんな安心めいた気持ちになっていると研究室の外から足音が聞こえてきた。その足音は確実に大林の研究室に近づいてきている。清掃員の格好をしているとはいえ、大林の研究室にこんな朝早くから勝手に入っていることは、どう見ても不自然な状況だった。カツ、カツ、カツ
研究室の前で足音は止まった。ガチャ!研究室の戸がゆっくり開いた。
タグ:足音

