「おや、清掃員さんですか、どうしました?私に御用ですか?」
大林は柴崎が扉の前にいることを不思議そうに尋ねてきた。
「いえ、私はこの大学の清掃に来たのが初めてで、仕事ぶりなどを上司がどう見るのかが心配でして、どんな細かいところも丁寧に清掃しておいたほうがいいかと思ったんです。ですから、隣の山崎先生の研究室の扉から順番に拭いていたんですよ。」
柴崎はとっさに隣の研究室のプレートに目をやり落ち着きを払いながら質問に答えた。
そして間髪入れずに、
「そうだ、もしよかったら先生の研究室の中も掃除しますよ。いかがでしょう?」
と聞き返した。
「それは、ご丁寧にありがとうございます。私の部屋は研究の資料で散らかりすぎていて確かに大変なんですよ。ですが、今はこれから研究の資料を作成しなければいけないので結構です。また、機会がありましたらよろしくお願いしますね。」
とっさに聞かれたせいか、柴崎の行動に疑いも持たず大林は丁寧に答えてきた。
「そうですか、では、また必要になりましたら、いつでも声をかけてください。」
(失礼しました、どうぞ)という素振りをしながら柴崎は扉の前からゆっくり離れた。もちろん、鍵穴の粘土を雑巾の下で静かに引き抜きながら…



