2008年01月30日

恥づる 24:写真

大林の不敵な笑みが頭に残ったまま、永澤は意識を失っていった。それからどれくらいの時間が経ったであろうか。ふと気づくと彼が彼女の前のソファーに座っているのが見えた。ぼうっとしながらゆっくりと体を起こした。寒い…彼女は自分自身の身体に異変を感じた。
「やあ、ようやく気づいたね」
ニヤニヤしながら大林は彼女の全身を眺めていた。
「あっ!」
永澤は服を脱がされたままの状態で寝ていたのだ。何かを身につけようにも周りには身にまとうものなど何もなかった。そんな慌てる彼女を見ながら大林は冷静に語りかけた。
「おやおや、落ち着きなさい」彼は口元に手をやりクスッと含み笑いをした。
「ふざけないでください!これは犯罪ですよ。大きな声を出しますよ」
気丈に答える彼女を冷ややかな目で見ながら大林は続けた。
「まあまあ、大きな声を出してみてもいいけど、その前にこれを見てよ」
彼はパソコンのマウスに手をやりクリックをした。電源が立ち上がり、画面が明るくなった。なんと、そこには永澤の裸にされた写真がいくつも映っていた。自身の恥ずかしい写真に彼女は思わず目を背けた。
「私、訴えます!許しません!」
気後れしまいと強気で叫ぶ永澤に、大林の目つきが鋭くなり本性を表し始めた。
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2008年01月28日

恥づる 23:大林の笑み

訳の分からぬまま、頭を抱えて大林の部屋を出た永澤は、ぼうっとしながら家路を走りながら帰った。確かに押し倒されたはず…しかし、それは夢だったのだろうか?彼女の頭の中は襲われたという恐怖とあいまいな記憶の不思議さで混乱していた。時間はすでに深夜だった。
次の日、永澤は昨日のことを忘れようと不安を抑えながら再び大林の研究室を訪れた。
「やあ、夕べはゆっくり休んだかな」
大林は心配そうに永澤の顔を見て優しく微笑みながら話しかけてきた。こんな優しいはずの先生があんなことをするはずがない…そう心の中で必死に思い込むようにした。
昨日と同様に研究の手伝いを終えるころ、大林がまたコーヒーを入れてくれた。
「ありがとうございます」
永澤は夕べのことを忘れかけていた。
コーヒーを飲み干し、席を立とうとしたその瞬間…
彼女は異様なめまいに襲われた。目の前の景色がゆがんで見えた。どうしたんだろう、私…そう思うと同時に意識がとおのいていく我を感じていた。意識が薄れゆく中、彼女には大林の顔が見えた。
彼は不敵な笑みを浮かべ、目の前に立っていた。
タグ:笑み
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2008年01月26日

恥づる 22:混乱した記憶

永澤が大林の部屋を出ようとしたその瞬間、突然後ろから大林が抱きついてきた。彼女は驚きのあまり声がすぐに出なかった。
「あっ…やめてください…」
そんな彼女のか細い声を掻き消すかのように大林は強引に細い身体を押し倒した。
永澤の記憶はそこで途絶えていた。何が起きたのか、押し倒されたことだけは覚えていたが、気づいた時には大林がコーヒーを入れていた。
「先生…?私…?」
訳がわからないまま、ボーっとした状態で彼女は大林に話しかけた。
「おやっ?気づいたの?よかったよ。突然倒れるもんだからびっくりしたよ!」
静かな声で優しく答えた。
「えっ?そうだったんですか?」
半信半疑で自分の身体と辺りを見渡しながら、顔を上げた。確かに彼女はその部屋のソファーに横になっていた。洋服も着たままだった。不思議そうな顔をしている彼女を見て大林は「研究の手伝いを夜遅くまでしていたから、疲れがたまっていたんだね。コーヒーを飲んだら帰ってゆっくり休みなさい。」
そう言って永澤にそっとコーヒーを差し出した。
「私…確かに…先生に…押し…」
その言葉は言おうと思ったが、混乱のあまり声に出すことができず彼女は両手で自身の顔を覆った。
タグ:記憶
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2008年01月23日

恥づる 21:大林の個室

その日も同じように永澤は大林の研究室に行き、彼の研究の手伝いをしていた。暑い夏の日の隙間をくぐったかのように、その日は珍しく雨が降っていた。蝉の騒がしい鳴き声もおさまり物静かな日だった。永澤は大林の研究データを熱心にまとめ、自分の手伝ったことが恩師の研究の成果につながるという純粋な成就感を感じていた。
時間はいつしか夜になり、気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。外はまだ雨がしとしとと降り続いていた。
「先生、終わったので私はそろそろ帰りますが…」
彼女は、隣の個室にこもって仕事をしていた大林の顔色をうかがうように話しかけた。
「あー、ありがとう。ちょっと休みなさい。コーヒーを入れるから飲んでいきなさい。」
大林は優しく声をかけた。永澤は尊敬している大林の部屋に入り、コーヒーを飲みながら将来の夢をしばし語った。大林は優しい眼差しで彼女の話を聞いていた。
「ありがとうございました。では、そろそろ帰ります。」
彼女がそう言って席を立った時には、かなり夜が更けていた。
タグ:個室
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2008年01月21日

恥づる 20:大林の秘密

大林は京帝大学の教授の中でも特にその将来を嘱望されている存在である。若い頃からトントン拍子に講師,准教授,教授へと駆け上がり,まさにエリート中のエリートだ。そして周囲の人間も彼の人格に微塵の疑いも持たない。それほどに日常の彼は優秀であり,完璧な人間に見えるのだ。しかし,そんな彼には大きな秘密があった。
その秘密を言えず,永澤里美は悩んでいた。「彼を吊るして・・・」闇の掲示板で悲痛な願いを訴えるしか方法はなかった。人知れず彼女が抱いている悩み,それこそが大林との関係にあった。彼女は大林の教育論に感動し,彼のゼミに入った。最初の頃は一ゼミ生として大林の研究の手伝いをし,時には夜遅くまでゼミ室で研究に打ち込んでいた。しかし,そんな彼女に事件が起こったのは,今年の夏のこと・・・その日は夏休みに入っており大学にはほとんど人の出入りがない状況だった。
いつものように彼女は大林の研究室を訪れ,彼の研究の手伝いをする予定だった。それがあのような悪夢の一日になろうとは彼女自身も予想だにしていなかった・・・
タグ:秘密
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2008年01月16日

恥づる 19:隠しフォルダ

「やっぱり,ここにあったか!」
柴崎は薄暗いネットカフェの個室の中で思わず叫んだ。いつもより大き目の自身の声に驚きとっさに右手で口を押さえた。(やばいやばい,周りに聞こえちまう・・・)心の中でつぶやきながら一人で辺りを見渡す仕草をした。
柴崎はフォルダオプションにある「隠しフォルダ」のチェックをはずしたのだ。普段は見えないようにしているためか,この部分への大林のセキュリティーは非常に甘かった。フォルダ名には「花鳥風月」と付けられていた。ふざけた名前にしやがって、そう言いたげな顔つきで柴崎はフォルダ内をゆっくり開いた。
なんと,中には大林自身のゼミ生だけでなく,大学内の女子学生の個人データが入っていた。体重や身長といった身体のことから,その学生の成績や出席状況までがこと細かに入力されていた。呆れたことに女子学生のスナップも数枚ずつデータの中には入っていた。
「うーん,おかしいな・・・」
そんな個人情報がつまっているフォルダを開いても柴崎は顔色一つ変えず,フォルダ内を検索しつづけた。
「これは,やつのコレクションのほんの一部だ。もしかして・・・外付けのハードディスクか・・・」
柴崎は考え込みながら、いつものように眼鏡の中央を持ち上げた。
タグ:フォルダ
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2008年01月11日

恥づる 18:大林のパソコン

柴崎は大林のパソコンハッキングを試みた。ハッキングとは本来はコンピュータ技術の創造的な行為を意味している。そういう意味では柴崎の行っているような他人のコンピュータに勝手にアクセスしたり侵入したりと悪用するケースはクラッキングと呼ぶのが現在の言い方では正しいかもしれない。しかし、いずれにせよ彼の技術には目を見張るものがあった。
「大林も慎重だな。自身のパソコンへのセキュリティーをかなり強固にしていやがる」
そんな独り言をいう自分自身に対して薄ら笑いをしながらパソコンへの侵入を試み続けた。
数秒後…大林のパソコン内の情報がついに、あからさまになった。
教育研究、論文、学内会議など仕事に関するフォルダがいくつも作成されている。
柴崎はおもしろがって「論文」のフォルダを開いた。知の育成における…子どもの学びにはいくつもの窓口があり…ヤングやマッハにおける…知覚心理学による低次な機能は…
柴崎は両手を軽く開き、下唇を前に突き出し「やれやれ」という顔をした。
その後、大林のパソコン内のフォルダを全て開きくまなく調べてみたが、怪しい情報は何も出てこなかった。
「俺の思い違いか…」柴崎は自身の探している情報がこの大学内のパソコンに保管されていると睨んでいた。
「いや、待てよ!」
柴崎は何かに気づいたかのように、再びキーボードを叩き始めた。
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恥づる 17:ハッキング@

「hitorishizuka」というハンドルネームの女性、その女性こそが京帝大学の大林研究室のゼミ生、永澤里美に間違いないことを確信したその夜、柴崎はネットカフェの自室でパソコンを開いていた。
カタカタカタ、いつものように静かで一箇所から灯りの差し込む部屋にはキーボードを打ち込む音だけが鳴り響いていた。遠くの方ではビリヤードに楽しく興じる若者たちの声が聞こえる。そんな楽しげな雰囲気とは対照的に柴崎は無表情にインターネットを開いている。
「パスワードは…?」「フォルダセキュリティーもかかっているな…」
ぶつぶつと呟きながら慣れた手つきでキーを叩き、彼は京帝大学事務局が管理している学生の個人情報のフォルダに入り込んでいた。彼にとってはハッキングなどお手のものなのだ。これだけの技術を持ちながら、なぜ彼はネットカフェに住み着いているのだろうか…見ている者がいればそう思わせるほど鮮やかな手さばきで「永澤里美」の情報を入手した。
「なかなか優秀な娘なんだな。過去二年は優ばかりだ。今年から三年生になり大林のゼミに入って専門性を磨いている、というわけか…?」
履歴に貼られている彼女の写真は、昼間会った女性とはまるで別人のような明るく爽やかな笑顔を見せていた。
「次は大林のパソコンだな…」
柴崎の目が獲物を捕らえる豹のようにより一層鋭い輝きを放ち始めた。
タグ:ハッキング
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2008年01月09日

恥づる 16:永澤里美

次の日の午後、柴崎は研究室前の廊下を黙々と清掃していた。時間は12時50分。もうすぐ大林の研究室でゼミが始まる。数人の学生たちが慌しく研究室に向かって走ってきた。男子学生が3人、女子学生が2人。この5人の中に「hitorishizuka」なる女子学生はいるのだろうか…柴崎の勘ではNoだった。なぜなら、彼女は大林のあるいやがらせに声を大にして言うことができず悩んでいるからだ。悩みを抱えているのであれば、おそらくこのゼミには一番最後にやってくるのではないか、そう柴崎は睨んでいた。
時計は13時を回り、あと数分でゼミが始まる。エレベーターから一人の女性が静かに大林の研究室に向かってきた。間違いない!柴崎はその女性を見て直感的にそう感じた。
その女性はうつむきながら重い足取りでゆっくりと歩いてくる。美しいはずの黒く長い髪の毛、色白できれいな肌をしたその女は完全に生気を失っていた。何か心に重たいものを抱え込んでいる様子を隠しきれないでいた。
彼女はうつむいたまま、そうっとゼミ室の戸を開けゆっくりと入っていった。
「おい、永澤!おせえよ」
「そうよ、里美もう少し早く来なさいよ!」
ゼミ仲間の声が中から響いてきた。
永澤里美…柴崎は眼鏡の中央を中指で押し上げ、ふぅっと一息すると清掃の仕事を続けた。
タグ:ゼミ
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2008年01月07日

恥づる 15:大林のゼミ生

すでに大学の講義は始めっていたが、教室にも入らず講義室前の廊下や隅にたむろしながら談笑する学生たちもいる。この京帝大学は私学でありながら教育学部の地位は高く、優秀な成績でなければ入学できないほどのエリート大学である。当然、教師になるものもいるのだが、その多くは研究者への道を選ぶのだ。
おいおい、こんな優秀な学校の学生でもこんな程度の就学態度かよ、清掃員として着用している帽子の影から見える柴崎の目は呆れていた。そんな学生を横目に廊下を通り過ぎると再び大林の研究室棟に立っていた。奴はすでに違う教室で講義を始めていた。そのことは研究室棟の掲示板にある講義表から容易に読み取れた。
「彼女は大林の研究室の学生だ。やつのゼミの時間に参加する学生をチェックすれば、その行動や態度から『hitorishizuka』が誰かは分かるはずだ…」
柴崎は、大林のゼミの時間をチェックした。
「なるほど、明日の4校時か、時間は13:05からの90分ね…」
それだけを確認し、柴崎は再び清掃準備室に戻った。
「おい、新入り、初日から遅えぞ。早く準備しろ!」芦沢の怒号が響いてきた。
「はい、すみません」冴えない返事を返しながら、帽子を一層深く被り清掃の準備をした。
タグ:ゼミ
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2008年01月03日

恥づる 14:学生「hitorishizuka」

清掃員として大林と接触した柴崎は何食わぬ顔で研究室前の廊下の掃除を続けた。その日、大林は研究室にこもり自身の研究に没頭しているようだった。
朝の清掃の時間が終了し、柴崎がB棟から引き上げるころ学生たちがぞろぞろと登校し始めた。(おはようございますぐらいできないもんかね…)そんな説教めいたことを考えながら挨拶もろくにできない今時の学生たちとすれ違いながら清掃準備室に戻ってきた。
「おう、新入りちゃんと清掃できたか?」
芦沢がニヤニヤしながら聞いてきた。
「はい、なんとか…」
「そうか、学生の綺麗な姉ちゃんに目をやってばかりいて清掃になれねえかと思ったよ」
若い柴崎の好奇心をあおるかのようにからかい気味に話しかけてきた。
うるさい爺さんだな…なかばあきれ気味に聞いていたが、ふと、「hitorishizuka」の女学生のことを思い出した。彼女はここの学生として通学している。もちろん、柴崎とは面識がなく、柴崎自身も誰が「hitorishizuka」なのかは分かっていないのだ。
「すみません、この休憩中にちょっと出てきます」
柴崎は、おい、若い学生にうつつぬかすなよ!まだ仕事はあるんだぞ、そんな芦沢のからかいも半ばに準備室から足早に出て行った。
posted by 志波純一 at 22:59| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (14) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする