2008年02月29日

恥づる 34:スキミングのタイミング

大林は机の上に散乱している資料に目を通し、必要な資料を片手に取ると自身の個室に入るため例のカードを財布から取り出した。柴崎は何食わぬ顔で彼のそばまでバケツとほうきを持って近づいた。そして、大林がカードセンサーにカードを通し財布に戻そうとした、その瞬間、柴崎は大林がカードをもっていた掌にほうきの柄を軽く当てた。パチン、カードは大林の手から床にひらりと落ちた。柴崎は、いかにも偶然当たったかのような態度で、
「あっ!先生、す、すみません」
と言うやいなや、びびった様子で肩をすくめながらすばやくカードを拾い上げた。
突然のことにキョトンとしている大林にカードを手渡そうと差し出した。しかし、次の瞬間、カードは再び足元のバケツの中に舞い落ちた。
「あ、あっ、先生、ほんとに、ほんとにすみません。大切なカードが…」
そう言うと、水面に浮かんだカードをバケツから取り出した。
「すぐに拭きますから、許してください」
大林が話しかける間も与えず、柴崎はカードを持ったまま研究室を飛び出した。そして、廊下においてあった清掃袋からスキマーを取り出し、すばやくカードを通して情報を盗み取った。いわゆるスキミングである。
数分もしないうちに柴崎は、白い綺麗なタオルにカードを包みながら研究室に戻った。
「先生、本当にすみませんでした。綺麗に拭きましたので許してください」深々と頭を下げながらカードを丁寧に手渡した。
「いえいえ、いいですよ。急にぶつかってびっくりしましたがね。カードのことは気にしていませんよ」
どうぞ、清掃を続けてください、そう言っているかのように、右手で床を指しながら物腰の柔らかい、いかにも普段の彼らしい紳士的な物言いで大林は受け答えをした。
「すいみません、本当に気をつけますので」
そう言いながら、二度とこんなことはないんだけどね…と柴崎は心の中でつぶやきながら清掃を続けた。
タグ:スキミング
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2008年02月26日

恥づる 33:清掃

カードセンサーを通す映像がモニターに映し出された瞬間、柴崎はほっと胸を撫で下ろした。
ICチップはない形のカードか…旧型のカードなら簡単だ…」
そんな独り言を言いながら、カードの種類を識別した。最近はセキュリティーが強化され、ICチップが搭載されたカードが主流になりつつある。そういう意味では大林の使用しているものは磁気だけの単純な構造だった。カチッ!
そのことだけを確認し、小型カメラのスイッチを切った。カタカタカタ…再びキーボードをすばやく打ち込むと何やらメールを送信した。
「よし、今日の仕事はこれで終わりだ。」顎鬚を一本抜きながらメールが送信されたことを告げるメッセージを閉じた。ふうとため息を一つつき、身体をごろりと横にしてから横目で天井を見上げた。薄明るいネットカフェのライトがぼんやり光っている。いよいよ、大林を本格的に吊るす方法が柴崎の脳裏に浮かんできていた。彼はゆっくり目を閉じ、しばしの休息をとった。
数日後、柴崎はいつものように大林の研究室前の廊下を清掃していた。一つだけ違っていたのは顔に一枚の絆創膏を貼っていたことだ。
「おはようございます」
廊下の先から声が聞こえた。大林だ。柴崎は深く被った帽子のつばを握って軽く会釈した。大林が研究室に入ると同時に柴崎は声をかけた。
「先生、研究室の中を簡単に掃除しましょうか?」
「あっ、ああっ、そうだね。たまにはお願いするかな。かなり汚いけど床くらい掃いていただこうか」怪しむ様子もなく答えた。
「では、失礼します」
柴崎は堂々と大林の研究室に入り清掃を始めた。
タグ:清掃
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2008年02月22日

恥づる 32:小型カメラ

この日,柴崎は清掃の仕事をすばやく終え,自身のネットカフェの個室に閉じこもった。パソコンを立ち上げ,カタカタとすばやくキーボードを操作した。モニター上に見られるデジタル時計は午後の5時半を表示している。この時間帯になると大林は研究室にいることが多い。研究生も今の時期は早く帰ってしまう。そのことは清掃の仕事をしながら観察していた。
「よし,つながった」
大林は眼鏡の中央を中指で押し上げながら,モニターに映し出された映像に目をやった。研究室に仕掛けた小型カメラが個室の前の状況を鮮明に伝えてきている。彼は大林の恥ずべき行為を吊るすため,ここ数日の間に仕事の合間を縫って様々な作業に取り組んでいた。大学の屋上にはカメラの電波を飛ばすためのアンテナを設置したり,校内には中継するための機器を設置したりした。清掃員として作業していたので学生や教員にもとりわけ怪しまれずに済んだ。
しかし,主任の芦澤には,作業の最中に時々指定された場所を離れていることを確認され,どこかで勝手に休憩しているのかと怒られたりもした。柴崎はモニターを見ながら,ふと,そのことを思い出し,クスッと一人笑いをした。
その時だ。大林が研究室に入ってきた映像が目の前に飛び込んできた。彼は周辺の資料をゴソゴソと探り,自身の研究に必要なものを探していた。山のように積まれた資料が一度机から山ごと落ちた。大林は慌てて資料を拾っている。
柴崎は,先ほどの一人笑いとは別の冷やかしのような含み笑いをしながら,その状況を眺めていた。大林は資料をもとに戻すと,必要な資料を手にして個室に入ろうとカードキーを自分の財布から抜き出した。カタカタカタ,柴崎がキーを叩くと同時にその瞬間の映像が拡大され,モニターに大きく映し出された。
タグ:カメラ 映像
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2008年02月16日

恥づる 31:まがい物のカード

柴崎はとっさに資料だらけの大きな机の影に隠れた。戸を開けた主は中の様子を見渡しながら静かに入り口に立っていた。柴崎は思わず身を縮めた。その視線が自分に向けられているのかというヒリヒリした感覚を感じていた。そして、一人の人間が静かに部屋の中に入ってくる気配を感じた。一歩一歩、机に近づいてくる。こんな時のために懐に用意している睡眠剤を含んだハンカチに思わず手をやった。
しかし、その足音は大林の個室の入り口に向かった。幸運なことに柴崎が隠れた机の逆方向にその入り口はあった。誰なんだ、こんな朝早くにこの部屋に入れるのは…大林なのか…気になったもののこの状況で机から顔を出すのは非常に危険だ。
彼は、ふと、先ほど設置した隠しカメラの存在を思い出した。そのカメラの映像は自身の携帯電話で見られるように設定されている優れ物だった。音を立てないように注意深く携帯取り出し、落ち着いてボタン操作をした。
携帯画面に映像が映し出された。大林の個室の前に立っていたのは、あの永澤里美だった。どうやら彼女は、柴崎同様、この部屋に入るカギを大林の目を盗んでこっそり作っていたのだろう。個室の前に立った彼女は自分のバックから取り出した数枚のカードを使ってセンサーに通していた。しかし、どのカードも反応しなかった。
「ダメだ!やっぱり、もう!なんで開かないのよ、このインチキ!」
 彼女はイライラしながらカードをドアにぶつけ、一人ごとを吐いた。彼女は彼女なりに自分が辱められたデータを取り返そうと必死だったのだ。おそらく彼女の持っていたカードは秋葉原の裏通りで売買されている中国製のまがい物だろうということが、この手のことに詳しい柴崎には容易に想像できた。数分後、彼女はあきらめた様子で研究室のカギを掛け直し、静かに出ていった。柴崎はいざという時のために握っていた睡眠剤入れのハンカチから片方の手を離し、大きなため息をひとつ吐いた。
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2008年02月13日

恥づる 30:足音

柴崎は自身の懐に手をやり、なにやら黒い小型の筒をゴソゴソと取り出した。
「ここでいいかな?」
彼はカードセンサーがよく見える場所に小型のカメラを設置した。極小サイズのもので設置されているのもわからない優れものだ。送信電波の距離もかなりの高性能のカメラだった。よし、とりあえずこれでいいかな…
ふと、そんな安心めいた気持ちになっていると研究室の外から足音が聞こえてきた。その足音は確実に大林の研究室に近づいてきている。清掃員の格好をしているとはいえ、大林の研究室にこんな朝早くから勝手に入っていることは、どう見ても不自然な状況だった。カツ、カツ、カツ
研究室の前で足音は止まった。ガチャ!研究室の戸がゆっくり開いた。
タグ:足音
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2008年02月10日

恥づる 29:セキュリティー

「資料のコピーだらけだな」数日後、柴崎は大林の研究室の中にいた。研究者らしく片付けもままならない状態で部屋の中は雑然としていた。あちらこちらに資料が積み重ねられており、ひとつでもずらせば土砂崩れしそうな資料の山もある。
「はあぁ…こんな中にあるわけないな」
呆れた様子でぶつぶつと呟き、資料の数枚を手にとってみた。今日は清掃員が朝早くから出勤し、普段よりも細かい部分まで掃除をする日であった。まだ。大林以下ゼミ生の姿も一人も見えない。柴崎が探し物を見つけるには絶好の日だった。
しかし、ひとつ重大な問題が発生した。彼は以前、清掃しながら形どった粘土からこの研究室の鍵を作り、忍び込むことに成功していた。が、肝心の大林の個室は資料の散乱しているこの部屋の隣に位置し、その部屋はカードセンサー式のセキュリティーが効いていた。
「おやおや、参ったな。やっぱりあいつにとってのやばい証拠品はこの部屋に保管されているな…しっかりガードしてるねぇ。」
さて、どうするか、柴崎は個室のドアの前で腕組みしながら、しばし考え込んだ。
posted by 志波純一 at 13:17| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (29) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月09日

恥づる 28:ゼミ生との会話

「hang」こと柴崎は大林のパソコンに入り込んだものの、永澤などの女性達を辱めた写真等を見つけることができなかった。一体、彼はどこにそれらを保管しているのか。大林の慎重な性格上、自宅に持ち帰ることはなく、警備やセキュリティーの確かな大学内、それも自身しか見ることのない場所…と考えれば、やはり研究室しかない、柴崎はそう睨んでいた。
この日も清掃員として大学内に入り込んでいた柴崎は、研究室前の廊下で大林のゼミ生の一人に話しかけた。
「すみません、以前に先生に機会があったら研究室の中を清掃してくれと頼まれたんですが…」
そのゼミ生は名を山本と言った。山本は太い黒縁眼鏡をかけ、地味な服装でいかにも真面目な風体だった。
「は、はあ、そうですか、でも、僕たちでも研究室の中には勝手に入れないので…」
そう言いかけた時、柴崎はすかさず言葉をさえぎった。
「いえ、ここを開けてくださいということではないんですよ。もし、先生に頼まれて中を清掃した場合に、絶対に触れたりしてはいけないようなところがあるのかと思いまして…先生に直接お聞きするのも失礼かと思い、生徒さんなら先生のこともよくご存知かと…」
えらく、仕事熱心な人なんだな、そんなふうに思いながら山本は気楽に答えた。
「それだったら、研究室内の先生の個室にある本棚は、大事なデータや研究論文があるから、絶対に触らないように言われています」
「ありがとうございます、注意いたします」
柴崎は目の前の真面目なゼミ生に深々と頭を下げ、肩をすくめながらその場をゆっくりと立ち去った。口元にかすかな笑みを浮かべながら。
タグ:会話
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2008年02月06日

恥づる 27:吊るし屋

「吊るし屋 あなたの恨みを書き込みください」
クリックした先に永澤が目にしたのは、そんな言葉が踊る怪しげな掲示板だった。その掲示板には、社会に対するさまざまな悩みや恨みが書きこまれていた。そして、その書き込みに対して返信のあった者だけが、さらに別のサイトに侵入できる仕組みになっている。
永澤は、自身のされた行為について「助け求む!スケベオヤジに復讐したい!」とだけ書き込んだ。数日後、彼女の掲示内容に対して反応があり、セキュリティーの効いた次のサイトへ進む権利を得ることができたのだ。進んだ先は個人の掲示板になっており、「吊るし屋」に連絡がとれるようになっており、彼女は自身のされたことをその掲示板に赤裸々につづった。「吊るしてください」その言葉に強い願いを込めて書き込みを終えた。
ハンドルネームが「hang」という見ず知らずの相手に自分自身の復讐を託したのだった。それほどまでに彼女は精神的に追い詰められていた。
その願いを託してから三週間がたっていた。彼女は大林の身に何も起こらないことに半ばあきらめの境地でいた。やはり、あの掲示板はただの冷やかしだったのだと自分に言い聞かせていた。「hang」という男がすぐ傍にいることも知らずに…
タグ:吊るし屋
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恥づる 26:里美の屈辱

紳士的でものごしの柔らかい雰囲気で話す普段の大林の姿はそこにはなかった。大林はこれまでも同様の手口で何人もの女子学生をねらい、辱しめてきたのだった。大林の薬で眠らせ、その隙に相手が逆らえない状況に追い込む…恥ずかしいという気持ちだけでなく、自身の恥ずかしい写真が世界中にばら撒かれるかもしれないという恐怖を与えることで彼は己の犯罪を闇に葬ってきたのだ。
この時以来、永澤は大林に逆らえなくなってしまっていた。何度も屈辱に耐えてきたのだ。死んでしまいたい…そう何度も考え手首に刃物を当てたこともあった。しかし、自殺する勇気がなかった彼女はどうしようもなくなり、いつしかネットで自殺幇助の裏サイトに入りこんでいた。誰か…私を殺して、自殺するのを後押ししてほしい、そんな気持ちで裏サイトを探していた。
そんな時だった。偶然、ある裏サイトのページの隅っこにある小さなマークを見つけた。最初は虫のようにも見えたそのマークは、よく見ると「吊」という文字のようにも見えた。彼女は不思議に思い、わずか一ミリ四方のそのマークをクリックした。
タグ:屈辱
posted by 志波純一 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (26) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月04日

恥づる 25:現した本性

「お前さあ、何か勘違いしてないか?」
大林の口調が今までになく乱暴になった。そんな乱暴な言葉に永澤は一瞬肩をすくめた。
「今、自分の置かれている状況が分からないみたいだね」
前髪をかきあげながら、パソコンモニターを指差した。
「これ、お前の恥かしい写真だよ。俺のコーヒーを飲んでよーく眠ってくれていたからなあ…じっくり見せてもらったよ」
いやらしい含み笑いをしながら彼は一枚の写真を拡大した。そこには裸にされた里美が映し出された。
「僕を訴えてもかまわないけれど、僕が社会的制裁を受けると同時に君も一生恥ずかしい思いをして生きていくことになるけど、それでもいいかい?」
紳士的な物言いの中に脅迫めいた言葉をゆっくりと並べる大林の顔に笑顔はなかった。
「このことを他人に漏らした瞬間に君のこの恥ずかしい写真は世界中に流出するよ。もちろん、モザイクなんてかけないよ。君の素顔のまま流出させてもらうよ。ふふふ…」
永澤は背筋に冷たいものを感じた。一度唾を飲み込みながら震える声で大林に問い返した。
「それが、あなたの本性ですか?」
「そのとおり!」獲物を狙う爬虫類のような目つきで答えた大林の口元はかすかに笑っていた。
posted by 志波純一 at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (25) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする