しかし、その足音は大林の個室の入り口に向かった。幸運なことに柴崎が隠れた机の逆方向にその入り口はあった。誰なんだ、こんな朝早くにこの部屋に入れるのは…大林なのか…気になったもののこの状況で机から顔を出すのは非常に危険だ。
彼は、ふと、先ほど設置した隠しカメラの存在を思い出した。そのカメラの映像は自身の携帯電話で見られるように設定されている優れ物だった。音を立てないように注意深く携帯を取り出し、落ち着いてボタン操作をした。
携帯画面に映像が映し出された。大林の個室の前に立っていたのは、あの永澤里美だった。どうやら彼女は、柴崎同様、この部屋に入るカギを大林の目を盗んでこっそり作っていたのだろう。個室の前に立った彼女は自分のバックから取り出した数枚のカードを使ってセンサーに通していた。しかし、どのカードも反応しなかった。
「ダメだ!やっぱり、もう!なんで開かないのよ、このインチキ!」
彼女はイライラしながらカードをドアにぶつけ、一人ごとを吐いた。彼女は彼女なりに自分が辱められたデータを取り返そうと必死だったのだ。おそらく彼女の持っていたカードは秋葉原の裏通りで売買されている中国製のまがい物だろうということが、この手のことに詳しい柴崎には容易に想像できた。数分後、彼女はあきらめた様子で研究室のカギを掛け直し、静かに出ていった。柴崎はいざという時のために握っていた睡眠剤入れのハンカチから片方の手を離し、大きなため息をひとつ吐いた。



