2008年03月04日

恥づる 35:偽造

ネットカフェの薄暗い明かりの個室で、柴崎は顔に貼った絆創膏をゆっくりと剥ぎ取った。大林は今日の研究室の一件を覚えていたとしても、おそらく柴崎の顔をはっきりと思い出すことはないだろう。人の記憶というのは曖昧で特に顔に何かが貼ってあると、そのことに気がいってしまい、後ではっきり顔を思い出すことができない。それが強盗や詐欺の犯人がよく使う手口であることを柴崎は知っていた。
剥ぎ取った絆創膏を親指でパソコンモニターの隅に貼り付けると、メールソフトアイコンクリックした。受信中…その文字が消えるやいなや彼は一通のメールに目を通した。先日送信した相手からの返信だった。「了解、至急作成する。材料を送れ」
彼は裏サイトを通じてハングという名で様々な裏社会とつながりをもっており、今日スキミングしたデータから偽造カードを手に入れることなど容易なことだった。
「材料を送る」
暗号めいた短いメールを再び送信した。
三日後、彼は近くの郵便局に行き、私書箱から一通の封筒を受け取った。中にはもちろん、大林の研究室の個室に入るための偽造カードが「GOOD LUCK」という一枚の紙切れと共に同封されていた。
「いよいよだな…」
柴崎は、「GOOD LUCK」と書かれた紙切れを一瞬眺めてニヤリと笑うと、封筒とともに一つに丸めてゴミ箱に投げ入れ、静かに郵便局をあとにした。
タグ:偽造
posted by 志波純一 at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (35) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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