清掃主任の芦沢の檄が飛び、朝の空気がいっそう引き締まった雰囲気の中、柴崎は汗をかいていた。
「おい、山田、どうした具合が悪いのか?働く前から汗かいてるぞ」
芦沢が心配して声をかけてきた。
「いえ、あ、は、はい…」
「なんだ、なんだ、しっかりしろ。返事も変じゃねえか。少し休んでいていいぞ」
厳つい風体には似つかない言葉をかけてきた。
「じゃあ、少しだけ休ませてください」
「おう、よくなったら、またしっかりやれよ!」
言葉は乱暴だが温かみのある言葉を残し芦沢たちは清掃員用の部屋から出ていった。実は、流れ出ていた汗は熱さを感じたものでもあり、寒気を感じたものでもあった。そんな得体の知れない汗であることを清掃員の『山田』こと柴崎自身が一番よくわかっていた。なぜなら大林の研究室で見たT・Sというイニシャルに心当たりがあったからだ。そのイニシャルが示す人物が柴崎の想像した人物であるなら、今回の一件は彼自身が思っているよりも根の深い問題であることを直感的に感じ取ったからこそ、流れ出た汗だった。
彼は清掃員用の部屋においてある大学職員の名簿要覧を手にとり、あるページを開いた。
斎藤正…京帝大学理事長…
「まさか、こいつか…」
柴崎は清掃員として雇われる際の面接で、一度だけこの男に会っている。要覧の名簿で確認するとT・Sというイニシャルの職員は斎藤を合わせて3人いたが、残りは共に女性であった。



