2008年03月06日

恥づる 36:牙城侵入

朝早い大学校内の廊下は人の気配がなく静寂さを保っていた。柴崎の歩く手前にはまるで冷たい空気が氷の壁を作っているように冷え冷えとしていた。その冷たい壁を壊していくかのように彼は一歩一歩ゆっくりと大林の研究室に向かって歩いた。今日の彼はそれほどに熱かった。いよいよ大林の個室に侵入できる、そう思うとハングとしての血が沸き立つのだろう。冷たい空気の中に広がる吐く息の白ささえ、いつもより濃く見える。
ガチャ、研究室に合鍵を使って入ると内側から部屋の鍵を閉めなおした。また、誰かに入って来られてはたまらない。時間を惜しむようにすばやく例の偽造カードを取り出し、個室前のカードセンサーに差し込んだ。
ノブを静かに回すとカチャという軽い音とともに、個室のドアが開いた。ついに奴の牙城に侵入することができたな、そんなことを思いながら眼鏡の中央を中指で押し上げ、部屋の中にゆっくりと足を踏み入れた。
研究資料や書物でいっぱいの本棚がいくつか立ち並び、その奥にデスクが見えた。パソコンはその上にあった。
しかし、永澤らのデータがあると踏んだ外付けハードディスクは見当たらない。DVDか、CDか…柴崎は地味なゼミ生山本の言葉を思い出した。「本棚は大事なデータや研究論文があるから、絶対に触らないように言われています」
柴崎は本棚に近づき、書物の間を丁寧に調べ始めた。
posted by 志波純一 at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | hanged1 恥づる (36) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする